大判例

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東京高等裁判所 昭和39年(行ケ)29号・昭40年(行ケ)21号 判決

一 両事件における無効審判事件の対象である実用新案権の内容、各事件の特許庁における手続経過および各事件の審決の内容については、各当事者間に争いはない。

二 そして、両事件とも、本件登録実用新案に対する無効審判の請求の理由とするところ、および審決において判断の対象となつた無効理由は、いずれも、本件登録実用新案と同様の延繩仕立漁具が、その登録出願前宮古地方において広く用いられていたという点にあることは成立に争いのない第一事件甲第三・第四号証・第二事件乙第二号証の一ないし四および口頭弁論の全趣旨によつて明らかである(第一事件甲第三・第四号証によれば、第一事件原告らは審判事件において、「(1)延繩を輪形に巻き取り該繩の一定区間に形成した浮吊環を輪形の上面に揃え、釣糸の一部を輪形の側部に出し、釣針を管で形成した棒状の針床に差し込み、この棒状の針床を輪形の延繩の上に置き、(2)この一連の延繩の下に割竹をあてがい、右針床と割竹の両端をしばつたものを紙に包みまたは重ねるとき紙を介在させたもの」が本件実用新案の登録出願前に宮古地方で公知公用であつたことを主張していたことが認められるが、その趣旨は、本件登録実用新案は右(1)の構造をもつた予備繩を単に包装紙で包装体としたにすぎないから新規な考案に該当しないというに帰することは明らかであるから、本件における第一事件原告らの無効理由とするところもこれと同一性を失うものでないと認めるべきである。)そして、第一事件の審決が右審判請求人主張の事実を認めず、無効理由なしとし、第二事件の審決はこれを認めて無効理由ありとしたものであるから、以下においてこの事実の存否について判断する。

第一事件原告本人(第二事件証人)村山善太郎の供述、同供述によつてその成立を認めうる第一事件甲第一二号証の一ないし七(第二事件甲第八号証の一ないし七)の記載、第一事件原告盛合三郎本人の供述、同供述および口頭弁論の全趣旨によつてその成立を認めうる第一事件甲第一三号証の一から四の記載、証人岩間利助の証言および第一事件検甲第二号証の一(第二事件検乙第二号証の一)を総合すると、第一事件原告村山善太郎が代表者をしている東光商事株式会社および第一事件原告盛合三郎が代表者をしている三陸資材株式会社においては、昭和三四年の五月、六月を中心とする、北洋におけるサケ、マス延繩漁業の漁期中、相当数の、予備繩といわれる、延繩を仕立てたものを製造し、または下請人に製造させたうえ、地元の漁業者その他に販売していたこと、右の延繩仕立漁具は、厚手の紙のうえに、幹繩を輪形に巻き取つて揃え、一定間隔をおいた所定の個所に、釣糸をつなぎ、また浮吊環(浮子をつけるため幹繩で小環状の結び目をつくつたもの)を幹繩の所定の個所に(浮吊環と浮吊環との間に等間隔をおいて五本の釣糸がつくようにして)つくり、その浮吊環が前記輪形に揃えた幹繩の上側にほぼ一列に並ぶようにし、前記釣糸の先につけた釣針を、管で作つた棒状の針床に差し込んで、前記幹繩の上に置いて仕立てたものであつて、これを前記の紙とともに、スルメ箱のような木箱に入れて販売したものであることを認めることができる。

のみならず証人関川万蔵、同高田栄一、同山本岩造、同山根伊兵衛の各証言および第一事件検甲第二号証の一(第二事件検乙第二号証の一)を総合すると、北洋のサケ、マス延繩漁業は昭和三一年度から許可制になつたが、おそくとも、その年度の出漁期である昭和三一年五月から六月にかけて、すでに、宮古地方のこの漁業に従事する者は、北洋へ出漁するに際し、竹籠に、延繩を仕立てたもののほか、予備繩といわれているもの、すなわち、前記認定のものと同様に幹繩を輪形に巻いて揃え、一定間隔をおいた所定の個所に針糸(釣針をつけたテクス糸)とをつけるとともに、また幹繩の所定の個所に浮吊環を結び、その結び目が前記輪形に揃えた上面に並んで現われるようにし、右の針糸の針は、別に添えた、菅又は藁で作られた針床に差し込んでおいたものを、相当数持つていつたこと、そしてその予備繩の保管方法として、これを紙に包んだり、間仕切りに紙を挾んで箱に入れておくなどの方法が広く用いられていた事実を認めることができる。

もつとも、証人川村清春、同三浦賢治の各証言および第一事件被告、第二事件原告三浦信平本人尋問の結果のうちには、以上の認定に副わない部分があるが、前記事実認定の資料とした各証拠と対比して措信することができず、ほかに、前記認定に反する資料はない。

以上の事実によれば、本件登録実用新案の出願日である昭和三四年一二月三〇日以前において、すでに宮古地方においては、北洋漁業へ出漁するに際して、いわゆる予備繩というものが船に積み込まれており、そして、その保管方法として、これを紙に包みあるいは、間仕切りとして紙を挾むことが広く用いられていたものであるところ、これを本件登録実用新案の技術内容と対比すると、延繩の仕立ての構成は全く同一であり、そして、これを包装紙で包んで包装体とする点においては、前記の広く用いられていたところと同じであるか(紙で包むようにしたものの場合)または類似のもの(間仕切りの方法として紙を挾んだもの)ということができ、したがつてまた、その作用効果についても格別の差異はないものと認められるので、結局、本件登録実用新案は、すでにその出願前に、宮古地方において広く用いられた技術内容と同一または類似のものというべく、右は旧実用新案法(大正一〇年法律第九七号)第三条第一号に該当し、無効とされるべきものといわなければならない。

したがつて、右の判断とその結論を同じくする第二事件の審決にはなんら違法の点がなく、これに反し右と結論を異にする第一事件の審決には判断を誤つた違法があるものといわなければならない。

よつて、第一事件の審決の取消を求める同事件原告らの請求を認容し、第二事件の審決の取消を求める同事件原告の請求はこれを棄却することとする。

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